スコープに引き続き、プロジェクトスケジュールマネジメントについてまとめます。
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プロジェクトスケジュールマネジメント
スケジュールは、プロジェクトスコープに定義されたプロダクトやサービス、所産をいつ、どのように創出するかを表し、ステークホルダーの期待値をコントロールしたり、パフォーマンス報告の基礎として使用されます。
プロジェクトスケジュールマネジメントの以下6つプロセスを確認していきます。
※ () 内はプロセス群の名前を記載。
- スケジュールマネジメントの計画(計画)
- アクティビティの定義(計画)
- アクティビティの順序設定(計画)
- アクティビティ所要期間の見積もり(計画)
- スケジュールの作成(計画)
- スケジュールのコントロール(監視・コントロール)
スケジュールマネジメントの計画(計画)
PMBOKガイドでは「プロジェクトスケジュールの計画、策定、マネジメント、実行およびコントロールするための方針、手続き、文書化を確立するプロセス」と定義されています。
インプット・ツールと技法・アウトプットは以下の通りです。
| インプット | ■ プロジェクト憲章 ■ プロジェクトマネジメント計画書 — スコープマネジメント計画書 — 開発アプローチ ■ EEF ■ OPA |
|---|---|
| ツールと技法 | ■ 専門家の判断 ■ データ分析 ■ 会議 |
| アウトプット | ■ スケジュールマネジメント計画書 |
インプット
プロジェクト憲章の要約マイルストーンスケジュールやスコープマネジメント計画書を使用して、スケジュールマネジメント計画書の作成を行います。
アウトプット
スケジュールマネジメント計画書では以下のような基準項目が記述されています。
- プロジェクトスケジュールモデルの作成
- リリースとイテレーションの期間
- 正確さのレベル(所要期間見積もりの決定に使用される許容範囲を特定)
- 測定単位(資源ごとの測定単位(時間、月、mなど)
- プロジェクトスケジュールモデルの維持
- コントロール閾値(スケジュール差異の許容限界値)
- パフォーマンス測定の規則
- 報告書式
アクティビティの定義(計画)
スコープベースラインに含まれるWBSのワークパッケージをさらに詳細化したアクティビティに分解するプロセスです。
インプット・ツールと技法・アウトプットは以下の通りです。
| インプット | ■ プロジェクトマネジメント計画書 — スケジュールマネジメント計画書 — スコープベースライン ■ EEF ■ OPA |
|---|---|
| ツールと技法 | ■ 専門家の判断 ■ 要素分解 ■ ローリングウェーブ計画法 ■ 会議 |
| アウトプット | ■ アクティビティリスト ■ アクティビティ属性 ■ マイルストーンリスト ■ 変更要求 <以下更新版> ■プロジェクトマネジメント計画書 —スケジュールベースライン —コストベースライン |
アクティビティの順序設定(計画)
定義されたアクティビティ間の関係を特定して文書化するプロセスです。ここではアクティビティ同士の前後関係や依存関係などを文書化しますが、期間などは次のプロセスで定義します。
インプット・ツールと技法・アウトプットは以下の通りです。
| インプット | ■ プロジェクトマネジメント計画書 — スケジュールマネジメント計画書 — スコープベースライン ■ プロジェクト文書 — アクティビティリストと属性 — 前提条件ログ — マイルストーンリスト ■ EEF ■ OPA |
|---|---|
| ツールと技法 | ■ プレシデンスダイアグラム法(PDM) ■ 依存関係の決定と統合 ■ リードとラグ ■ PMIS |
| アウトプット | ■ プロジェクトスケジュールネットワーク図 <更新版> ■ プロジェクト文書 — アクティビティリストと属性 — 前提条件ログ — マイルストーンリスト |
ツールと技法
プレシデンスダイアグラム法は、スケジュール構築技法の1つで、AON(Acotivity on Node)ともいわれます。ノードと呼ばれる箱に、アクティビティの所要期間(DU)が記載され、前後の順序関係を表現します。
PDMでは以下のように、4つの依存関係あるいは論理的順序関係を表現する方法があります。

先行のアクティビティの開始(S) もしくは終了(F) が、後続アクティビティの開始(S)および終了(F)になることを表しています。
また、PDM以外にも アローダイアグラム法(ADM)という技法があり、別名 Activity On Arrow (AOA)と呼ばれています。アロー(矢印)にアクティビティに必要な所要期間が記載され、丸(ノード)は状態を表します。
PDMやADMの詳細については、 ADM(アロー・ダイアグラム法)、PDM(プレシデンス・ダイアグラム法)、AON(アクティビティ・オン・ノード)の違い がわかりやすいので合わせて参照してください。
また、GERT(Graphical Evaluation and Review Technique)という技法は、アクティビティ間のループや条件分岐を表現することが可能です。
依存関係については以下の4種類があります。
- 強制依存関係(ハードロジック):法的、契約などにより依存関係で物理的制約条件から決まることが多い。(例:Aが完了しないと、Bはできない)
- 任意依存関係(ソフトロジック):他の順序設定が可能でも、ベストプラクティスという概念で設定された依存関係。(例:Aの作業はBの後に実施されることが奨励されている)
- 外部依存関係:非プロジェクトアクティビティとの依存関係でチームのコントロール外である。(例:Aという外部研修を受講したら、Bというアクティビティを開始できる)
- 内部依存関係:プロジェクトチームコントロール下にあるプロジェクト内のアクティビティ間の関連付け(例:PCにチームがソフトウェアをインストールしたら、Aというタスクを開始できる)
リードは後続のアクティビティを前倒しできる期間で
ラグとは先行が終了して後続の開始を遅らせる期間を表します。

アクティビティ所要期間の見積もり(計画)
アクティビティの順序を設定したら、次は各アクティビティを完了するために必要な作業期間を見積ります。
インプット・ツールと技法・アウトプットは以下の通りです。
| インプット | ■ プロジェクトマネジメント計画書 — スケジュールマネジメント計画書 — スコープベースライン ■ プロジェクト文書 — アクティビティリスト・属性 — 前提条件ログ — 教訓登録簿 — マイルストーンリスト — プロジェクトチームの任命 — 資源ブレークダウンストラクチャー — 資源カレンダー — 資源要求事項 — リスク登録簿 ■ EEF ■ OPA |
|---|---|
| ツールと技法 | ■ 専門家の判断 ■ 類推見積もり(トップダウン見積り) ■ パラメトリック見積り ■ 三点見積り ■ ボトムアップ見積り ■ データ分析(代替案分析、予備設定分析) ■ 意思決定 ■ 会見 |
| アウトプット | ■ 所要期間見積り ■ 見積もりの根拠 <更新版> ■ プロジェクト文書 —アクティビティ属性 —前提条件ログ —教訓登録簿 |
インプット
アクティビティの所要期間を見積もるために、プロジェクト資源マネジメントのプロセスのアウトプットがインプットとして使用されています。
特に資源要求事項には、アクティビティに必要な資源の種類と量が記載されています。例えば、特定の
アクティビティ資源の見積もりのアウトプット
- 資源要求事項
- 資源ブレークダウンストラクチャー
資源の獲得のアウトプット
- プロジェクトチームの任命
- 資源カレンダー
ツールと技法
見積りのプロセスではこれらの技法が使用されます。
類推見積り:過去の類似アクティビティやプロジェクトをもとに所要期間やコストを見積もる。他の見積り方法に比べ安価で時間がかからないが、正確さは劣る
パラメトリック見積り:過去のデータやプロジェクトのパラメーターに基づいて所要期間やコストを算出するためにアルゴリズムを使用する算出方法。過去のデータとその他の変数との統計的関係を使う。
三点見積り:不確実性やリスクを考慮することで正確さを向上させる計算方法。過去のデータが不十分な場合、価値判断を伴うデータが必要な時に用いられる計算方法
最頻値(tM)、楽観値(tO)、悲観値(tP) の3つの変数を足して3で割ることで見積もり(tE) する。
tE = (tM + tO + tP)/3
また、ベータ分布での見積もりにおいては、最頻値に4をかけて、6で割る計算が行われる。
tE = (tM + tO*4 + tP)/6
ボトムアップ見積り:WBSの下位レベルの構成要素の見積もりを集計して所要期間やコストを見積もる方法。他の方法と比べ時間が必要だが、正確さが一番高い見積り方法
データ分析にある予備設定分析は、スケジュールの不確実性を補うためにコンティンジェンシー予備を盛り込むことがあります。
スケジュールの作成(計画)
プロジェクトの実行と監視コントロールのために、スケジュールのモデルを作成し、アクティビティ順序、所要期間、資源への要求事項、スケジュールの制約条件などを分析するプロセスです。このプロセスはプロジェクト全体を通して行われます。
インプット・ツールと技法・アウトプットは以下の通りです。
| インプット | ■ プロジェクトマネジメント計画書 — スケジュールマネジメント計画書 — スコープベースライン ■ プロジェクト文書 — アクティビティリスト・属性 — 所要期間見積り — プロジェクトスケジュールネットワーク図 — 前提条件ログ — 教訓登録簿 — マイルストーンリスト — プロジェクトチームの任命 — 資源ブレークダウンストラクチャー — 資源カレンダー — 資源要求事項 — リスク登録簿 ■ 合意書 ■ EEF ■ OPA |
|---|---|
| ツールと技法 | ■ スケジュールネットワーク分析 ■ クリティカルパス法(CPM) ■ 資源最適化 ■ データ分析 — What-if シナリオ分析 — シミュレーション(モンテカルロ分析) ■ リードとラグ ■ スケジュール短縮 ■ PMIS ■ アジャイルのリリース計画 |
| アウトプット | ■ スケジュールベースライン ■ プロジェクトスケジュール ■ スケジュールデータ ■ プロジェクトカレンダー ■ 変更要求 <更新版> ■ プロジェクトマネジメント計画書 ■ プロジェクト文書 |
ツールと技法
クリティカルパス法(CPM) は、プロジェクトの最短所要期間を見積り、スケジュールモデル内で論理ネットワークパスにおけるスケジュールの柔軟性を判定するために使用されます。ここでいくつかの用語をチェックしておきます。
- 最早開始日(ES)と最早終了日(EF):最早(Earliest)で作業を開始および終了できる日
- 最遅開始日(LS)と最遅終了日(LF):最遅(Latest)で作業を開始および終了できる日
- トータルフロート(トータルスラック):プロジェクト全体の終了日を遅らせることなく、作業の開始や終了を遅らせることができる余裕期間。
- フリーフロート(フリースラック):後続のアクティビティの開始日を遅らせることなく、先行アクティビティを遅らせることができる余裕期間。
- フォワードパス(Forward Pass):個々のアクティビティのESとEFを算出
- クリティカルパス (Critical Path) :フォワードパスで一番時間を要するパス(Path)で、フロートは 0 以下になる
- バックワードパス(Backward Pass):個々のアクティビティのLSとLFを算出
例えば以下のようなAからFのタスクがあります。

これをPDMにおいてこのクリティカルパスを算出するとしたら以下のように計算します。
- アクティビティの前後関係を矢印で繋げます。そしてフォワードパスを記載していきます。フォワードパスは、ESとEFを計算します。合流地点(DとE)では値の大きいほうを選択します。

- 次にバックワードパスを記載していきます。合流地点(B,C)では値の小さいほうを選択します。

- 最後に、トータルフロートを計算します。トータルフロート(TF)は、TF = ES – LS で計算し、TF <= 0 がクリティカルパスになります。

ここでは A – C – E – F がクリティカルパスです。
CPM 以外にも以下の数理解析手法があります
- PERT:三点見積り(ベータ分布)を利用
- GERT:確率処理による見積り
- クリティカルチェーン法:アクティビティのバッファーを認めず、プロジェクトバッファーとして集約する。マルチタスクを認めずシングルタスクで休みなくタスクを開始~終了していく手法
資源最適化はアクティビティの開始日と終了日を調整し、計画された資源の使用量を資源の可用性以下に調整するために使用されます。資源最適化の技法としては以下の2種類が例として挙げられます。
- リソーススムージング(資源円滑化):資源の要求量が上限を超えないように、スケジュールモデルのアクティビティを調整する技法。クリティカルパスには影響しない。
- リソースレベリング(資源平準化):資源の制約条件に基づき開始日と終了日を調整する技法。クリティカルパスを変更する原因となることが多い。
スケジュール短縮はプロジェクトスコープを変更せずにスケジュールを短縮する技法で、主に2種類の技法があります。
- クラッシング:遅延しているアクティビティにリソースを追加することでスケジュールを短縮する技法。コストが増加するがファストトラッキングに比べリスクは低い
- ファストトラッキング:先行のアクティビティやフェーズが完了せずとも、並行して後続のアクティビティやフェーズを実行する短縮技法。手直しやリスク増大を招くことがある。
アウトプット
プロジェクトスケジュールは、個々のアクティビティの計画開始日と終了日の記述が含まれ、いくつかの形式で視覚的に示すことが多くなります。
- バーチャート(ガントチャート):縦軸にアクティビティ、横軸に日付を示し、開始日と終了日、予定所要期間を水平バーで表現する。アクティビティ間の依存関係は表現せず、進捗報告ツールとして利用される

- マイルストーンチャート:主要成果物の予定開始日と終了日、外部との重要なインターフェイスのみを記述

- プロジェクトスケジュールネットワーク図:PDMのような形式で表現され時間軸なしでアクティビティと依存関係を表現する。
スケジュールのコントロール(監視・コントロール)
プロジェクトスケジュールを更新するための変更マネジメントプロセスです。その他の監視・コントロールのプロセスと同様に作業パフォーマンスデータとベースラインと差異分析をし、必要に応じて変更要求を実施します。
スケジュールの変更において、PMはまずインパクト調査を行いますが、スケジュールではフロート分析を行うことが最初の作業になります。
インプット・ツールと技法・アウトプットは以下の通りです。
| インプット | ■ プロジェクトマネジメント計画書 —スケジュールマネジメント計画書 —スケジュールベースライン —スコープベースライン —パフォーマンス測定ベースライン ■ プロジェクト文書 —プロジェクトカレンダー —教訓登録簿 —プロジェクトスケジュール —資源カレンダー —スケジュールデータ ■ 作業パフォーマンスデータ ■ OPA |
|---|---|
| ツールと技法 | ■ データ分析 —アーンドバリュー分析 —イテレーションバーンダウンチャート —パフォーマンスレビュー —傾向分析 —差異分析 —What-if シナリオ分析 ■ クリティカルパス法 ■ PMIS ■ 資源最適化 ■ リードとラグ ■ スケジュール短縮 |
| アウトプット | ■ 作業パフォーマンス情報 ■ スケジュール予備 ■ 変更要求 <以下更新版> ■ プロジェクトマネジメント計画書 ■ プロジェクト文書 |
次はコストマネジメントへ
スケジュールについてまとめたので、次はコストマネジメントをまとめていきます。
今回はここまで!












